天地明察

天地明察

天地明察

冲方丁の時代小説。初めて読む作家さんです。
ペンネームがまず読めませんでしたよ。
「うぶかたとう」と読むそうです。読めないー。そして変換できないー。


物語は、碁方・算術・天文学神道と様々な事に従事した「渋川晴海(安井算哲)」の生涯。かなり面白かったです!
「暦」というものにこれほどのドラマがあるとは……。確かに昭和から平成になっただけでも大混乱だったのだから、さもありなん。


「碁方」という任がこれほど重鎮と繋がりのある職だとは思いませんでした。次々と登場する歴史的人物に仰天です。
まず、幕府側では有名な水戸光圀から始まって、会津藩初代藩主で家光・家綱を補佐した肥後守保科正之、若く有能な老中酒井忠清が背後につきます。
碁方としては、碁の天才本因坊道策」がライバルとして登場。「ヒカルの碁」で佐為が碁を教えたという設定の本因坊秀策は碁方の150年後輩で、「道策の再来」と言われた人物。道策を前聖、秀策を後聖と呼ぶそうですね。
算術としては、和算をこの世に編み出したといわれる算聖関孝和と運命的な出会い。算術道場の主「村瀬義益」や、のちの妻となる「えん」とも算術が縁で知り合います。
天測の任では名書家「建部昌明」、御典医「伊藤重孝」と旅に出たことで成長し、会津藩藩士であり友人でもある「安藤有益」垂加神道の祖山崎闇斎と再会して助力を得ます。
wikipedia等で人物像を調べながら読むと、「あの事件をこう書いたか」「あれとあれを繋げたか」という楽しみ方がありますね。


歴史物ではありますが、ライトノベル作家が手がけているだけあって読みやすく、かといって変な媚を感じないので全世代にオススメです。ヒロインがツンデレとか言われていますが、別にそうは感じませんでした。普通です。
あえて難を言うならば、難しい用語を多様しているわりに、地の文が少しちぐはぐで気になるところが少しあるくらい。
たとえば、冒頭の「その日、春海は登城の途中、寄り道した。寄り道のために、けっこう頑張った」の文。この稚拙さには顔をしかめました。他の文からすると異様な違和感を感じます。もしかすると晴海の子供っぽい性格の表現なのかもしれませんが、そういうものは言動の描写で示された方が理解しやすいですね。
けれど、物語を追ううち文章に関してはあまり気にならなくなりました。
とにかく構成力が良くて、ラストシーンではホロリと。
あくまで史実をベースとした創作ですから、どこまで真実かは不明ですが、自分の進むべき道を邁進した結果、歴史が動くという物語は何とも感動的ですね。
この作家さんの他の作品は全く知らないのですが、そのうち読んでみたいです。


にしても、当時の庶民の娯楽の一つが「算術」だったという話は以前テレビで見て知っていたのですが、作中の「算術」の難問には、手も足も出ませんでした。つるかめつるかめ……。
理数系の人にはぜひ、解答が示される前にあの難問を解いてみて欲しいですね。
ちなみに「1尺=10寸=100分」で、1寸はおよそ3センチです。