さよなら妖精
- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2004/02
- メディア: 単行本
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マーヤはどこから来たのか。一言で言えばそれだけの事。
もう少し詳しく内容を述べようと思います。
少々ネタバレになりますので注意。
1991年にユーゴスラビヤから日本の文化を学ぶためにやってきたマーヤが、高校生の男女4人と知り合います。
当時のユーゴは6つの国からなる連邦でしたが、主人公たちはユーゴのことをほとんど知りません。
そのうち、ユーゴでは紛争が始まり、マーヤは自国へと戻ってゆきます。
しかし、残された人々は、マーヤの出身地がその6つの国のうちのどこだったのか、ということを知りませんでした。
6つの国のうち、どこへ帰ったかで安全度が天と地ほども違うのです。
マーヤを心配する主人公は当時の思い出をたどり、マーヤの出身地はどこなのかということを突き止めることにします。
謎を解き明かすという意味では『推理小説』、ボーイ・ミーツ・ガールという意味では『青春物語』です。
ただ、これをそういう言葉で単純にくくれない自分がいます。
根底に流れているのは、『無知』と『無感心』。
主人公の行動は青いけれど、それは「知らなければならない」という情熱。
日本は、治安の悪化した国にボランティアで赴く人間を軽蔑することもある国ですが、義に駆られる彼を誰が責められよう。もちろん、行動に移せない弱さも。
『さよなら妖精』というタイトルは、いかに日本人があの国を知らないか、いかに日本は平和かという象徴なのでしょうか。
ユーゴと妖精という単語に、ピクシー(いたずら妖精)と呼ばれたユーゴサッカー界の英雄を思い出す人も多いでしょう。日本にとって最も身近なユーゴ出身の人物です。
1990年代の彼の不遇を思うと現実にあってもおかしくない物語で、それを絵空事のように感じてしまう自分が悲しい。
決して愉快な話ではありません。
でも、心に残る話でした。
ちなみに、文庫版。
- 作者: 米澤穂信
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