マイ・ベスト・ミステリー III
- 作者: 日本推理作家協会
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/09/04
- メディア: 文庫
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先日に引き続き、寝込みながらアンソロジーを読みふけりました。
なぜ「II」をすっとばして「III」かと言えば、近所の本屋に「II・IV・VI」が無かったという単純な理由です。
というわけで、次に読むのは「V」になりますナ。
岩井志麻子・自薦「魔羅節」
→葉山嘉樹「セメント樽の中の手紙」
「魔羅節」は、村の雨乞い祭で男どもに犯されまくった兄が、妹連れて逃げて、男相手の売春しながら生き延びるが……という話。
「セメント樽の中の手紙」は、セメントの粉砕器に恋人が巻き込まれて粉々になったので、このセメントがどこで何に使われるか教えて下さいという手紙。
ちょっ、冒頭から立て続けにヘビー級なんですが。
恩田陸・自薦「オデュッセイア」
→島田荘司「糸ノコとジグザグ Jigsaw And ZigZag」
「オデュッセイア」は、ココロコという「生きた岩」を巡るお話。ファンタジーから現代へ、そしてSFへの転換は見事。
「糸ノコとジグザグ」は、既読でしたが、この本でのベストだと思う。ラジオ局に寄せられた謎の暗号文を解読し、DJとリスナーが力を合わせて、1人の青年の自殺を止めるお話です。
10年以上前に読んだ時も、すごく興奮した記憶があるけれど、今読んでも名作だなぁと思いました。御手洗潔探偵が名前を出さずに登場する番外編です。
篠田節子・自薦「青らむ空のうつろのなかに」
→西村寿行「痩牛鬼」
「青らむ空のうつろのなかに」は、現代幻想ホラー小説とでも言えばいいのかな。謎はない。人間を信じられず、養豚の豚にしか愛情を持てなかった少年の末路です。
「痩牛鬼」は、幼少時に売り飛ばされた牛の“生まれ変わり”と信じた松阪牛と共に逃亡する少年の話。
どちらも、「命を食べるとはどういう事か」を飲み込めないで育った子供のお話で、居心地の悪さを感じます。
多分、それは私が、特に何も考えずに豚も牛も食べているからだろうな。
高村薫・自薦「みかん」
→武田泰淳「ひかりごけ」
「みかん」は、青い蜜柑を探し回る老人の話。「おじいちゃん、ボケちゃった?!」と心配してしまうような、それでいてしっかりと自我のある、何ともきわどい疑似体験のできる短編。何故かドキドキした。
「ひかりごけ」は、難破して船員を食べた船長の話。「青らむ空の〜」と「痩牛鬼」を読んだ後だったせいか、余計に重かった。
馳星周・自薦「古惑仔 チンピラ」
→大藪春彦「雨の露地で」
ヤクザ系ハードボイルド2編。
ハードボイルドって、何でいつも唐突にドンパチがあって、急にのたれ死んで終わるんだろう。
っていうか、謎もないのにミステリーのジャンルに入るのかな。探偵ハードボイルドなら判るんだけど。
山田風太郎・自薦「まぼろしの恋妻」
→夢野久作「瓶詰の地獄」
「まぼろしの恋妻」は、人間荘の住人の語り形式の物語。ちょっと変わった人ばかり住んでいます。ミステリーという感じではないけれど、全ての住人の事は知りたくなったので、いつか全ての連作に目を通してみたいと思います。
「瓶詰の地獄」もミステリーではないですが、物語の作りというか、時系列の並べ方が上手い。そうか、この2篇は「組み立て」が主題なのだな。
山田正紀「雪のなかのふたり」
→日影丈吉「かむなぎうた」
「雪のなかのふたり」は、窓際に追いやられたサラリーマンと、浮浪者が、お互いを罵り合う話。
「かむなぎうた」は、死んだ老女を殺したのは、自分の友達じゃないかと恐れる子供の話。
ちょっとした悪夢を見たような、もやっとした気持ちになる2編。
うーん……「III」は、推理小説っぽい作品が少なすぎるかなぁ。
ただ、胸の奥にイヤ〜な感じの何かを、ザラッと残された感じはしますね。