孤宿の人。

孤宿の人(上) (新潮文庫)

孤宿の人(上) (新潮文庫)

孤宿の人(下) (新潮文庫)

孤宿の人(下) (新潮文庫)

宮部みゆきの時代小説。
江戸時代、四国にある架空の藩が舞台となっています。


江戸からお参りの途中に置き去りにされた“ほう”。
女だてらに引手見習いを勤める“宇佐”。
医者の娘に思いを寄せていた町役人“渡部”。
そんな彼らが住まう丸海藩へ、江戸から“鬼”が来るという噂が……。
彼らの視点から代わる代わる語られる“祟り”の真実とは。


知ることの怖さ、解ることの悲しさが綴られていました。
それを知り、理解し、胸にとどめることの辛さも。
知らないことの切なさも。
“悲劇”を無垢なるもので包み込んだ、ぽっかりとした虚無感。
あまりにも美しく、汚れのないラストシーンです。
浅田次郎の『憑神』や、ダニエル・キイスの『アルジャーノンに花束を』をどこか彷彿とさせるもので、嘆いているのは読者だけのような、そんな気分にさせられました。
主人公が泣かないから、代わりに泣いてあげるのかもしれません。


ただ、解ることを知り、己ができることをする人は、たった一人でも立派に生きていける。
私は“ほう”のように逞しく生きることができるでしょうか。
個人的には、ほう以外のキャラクター達にも救いが欲しかったですが、名作であるのは間違いない。
悟りの境地に達するには、私はまだまだ青いです。