蝦蟇倉市事件1

総勢11人の作家が作り上げた仮想の町『蝦蟇倉(がまくら)市』を舞台とするアンソロジーミステリーの上巻。
道尾秀介の作品は上巻の中では断トツでした。
一度目は素直に騙されて読み返し、後書きで慌てて三度読み。
「何にも謎ないじゃん」って思ったのですが、実は初版は69ページ16行目に誤植があるようです。しかもかなり「致命的な誤植」なのでご注意を。
以下、公式サイトより引用。

【お詫びと訂正】
初版に下記のとおり誤りがございました。謹んでお詫び申し上げ、訂正させていただきます。
69ページ16行目
×「七時二十五分。祭囃子が、やかましい音を聞かせていた。」

○「六時五十八分。祭囃子が、やかましい音を聞かせていた。」
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488017354

この時刻が違うだけで、ラストの混沌度が全く違うのです。
最後の「人影」は誰だったんだろう……。ネットで考察を書いている人の説を読むと推測がバラバラなんですよね……。
私なりの考察は後ほど。


次点では福田栄一が面白かったです。
お姉さんの活躍をまた見たいと思いました。彼女の上司が道尾作品の「あの人」というのも面白かったですね。

ただ、「お祭り騒ぎ」という側面から見るとこの両氏の作品は「真面目すぎる」かもしれません。
二本目の伊坂作品は、道尾氏の作り上げた世界観を和らげ、悪く言えば「ちゃかした感じ」になりました。個人的には少し蛇足だなと感じましたが、これが好きな人も多いようですね。
残る大山・伯方両氏の作品は、この『蝦蟇倉』をギャグ方向に大幅に修正したと思います。


方向性がすごく違う作家さんたちなので、全部がお気に入りってことはない本だと思いますが、企画モノとしては面白い一冊でした。下巻も読みます。


以下若干のネタバレ含む備忘録。注意。


【弓投げの崖を見てはいけない/道尾秀介交通事故で証拠隠滅を謀った男が、まるで亡霊にでも襲われたようにその事故現場で殺される。細部まで計算されつくした「小説ならでは」の物語。逸品。
【浜田青年ホントスカ/伊坂幸太郎なりゆきで相談屋の手伝いをする事になった家出青年が、仕事の本当の意味を知る。オチは「なんだかなぁ」でした。うーん、基本はギャグの人なのかしら?
【不可能犯罪係自身の事件/大山誠一郎十年前の事件の相談に来た男が不可能犯罪係の博士の自宅で殺され、博士が第一容疑者となる。推理の組み立てのやりとりは面白かったけれど淡泊。トリックと動機は「そんなーっ」という感じ。
【大黒天/福田栄一亡き祖父の家にあった大黒天の像が、何者かに騙されて奪われた。孫の姉弟によって、知らなかった祖父の過去が徐々に明らかになる。企画ものでなければ、思わずシリーズ化を期待してしまう1編。
【Gカップ・フェイント/伯方雪白】世界中から格闘家が集まるグラップリングワールドカップの日、元カリスマプロレスラーの市長と因縁のある男が仏像に押しつぶされて殺害される。ここまでおバカな展開だと、「あり得ない」と怒る気は失せます。面白い。


以下、かなりのネタバレを含むので超注意。勘違いもあるかもしれないので注意。
モバイルユーザーで、かつ未読の人はココでストップです。


【弓投げの崖を見てはいけない】のラスト、車ではねられた人影には3人の可能性があります。
包丁を持った男、携帯を持った男、矢を持った男。
(誤植のある初版では「矢を持った男」しか解答はあり得ませんが)
     ┃ │
     ┃★事故現場
 トンネル╋ │サイクリングロード
─────╂─┘
 ┏━━━┫↓車の進行方向
商┃↑囃 ┃
店┃↑子 ┃■アパート
街┃↑台 ┃
 ┗━━━┫
簡易化した地図を書いてみますと、アパートから出て事故現場へ徒歩で北上するつもりの「矢を持った男」は、道路を渡る機会がないので、南下してくる車にはねられることはないように思います。
商店街から囃子台の進行方向と逆行した「携帯を持った男」は「南」から、囃子台を追い越した「包丁を持った男」は「北」からアパートに向かいます。
┃  ┃
┃  ┃┌─┬─┬──┐
┃  ┃├階┤廊│  │
┃ 車┃├段┤下│  │
┃ ↓┃└─┤ │  │
┃ ★┃  │●弓子 │
┃  ┃  └─┴──┘
次はアパートの図。
弓子の部屋は二階の廊下の一番奥にあり、出かける時に玄関から廊下を右に曲がるという描写があるので、こういう位置関係になるかと思います。
そして、事故は弓子の真下で起こったというので、アパート前の車道が事故現場となります。


仮説1。「包丁を持った男」は、階段を下りた直後「弓を持った男」を発見し、背後から来る無点灯の車に気が着かずに飛び出して、はねられた。
仮説2。部屋から出てきた「弓を持った男」が「包丁を持った男」に襲われているのを発見した「携帯を持った男」が、慌てて車道に飛び出してはねられた。
仮説3。「包丁に持った男」に襲われた「弓を持った男」が、車道に突き飛ばされて、はねられた。


「事故現場はアパートの南側ぎりぎり」となると、北からきた人物が一度アパートの階段を追い抜くことになり、少し不自然になります。もちろん少しウロウロしていたとか、しばらく様子を伺っていて、「矢を持った男」が出てくるのを見て飛び出した、という可能性はあります。
「前方からくる車に気がつかないものだろうか」という事が気になって、南から来た「携帯を持った男」は何となく除外していたのですが、上の方ばかり気にしていたら、可能性はないとは言い切れず、その仮説2が一番確率が高いのかな。ううん、やりきれない。
でも、「大黒天」ではその「携帯を持った男」が友情出演しているんですよね。もちろん時系列が違うのかもしれませんが。


仮説4として、弓子が思いっきりドアを開けたら、まだドアの前にいた彼を車道までポーンとはね飛ばし、「上から降ってきた男」をタイミングよく車がはねた、というトンデモ論も並べておきます。
大山氏や伯方氏の作品なら、ガチじゃないですか?(まて)
正解が解った人、教えて欲しいです……。