追想五断章
- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2009/08/26
- メディア: 単行本
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作中小説も、とある事件の手がかりとなっています。家族愛と自尊心のせめぎ合いが根底にありました。
相変わらずの米澤節で、無気力な主人公、救われない結末。感想を聞かれたならば、いつものように「楽しくはないけれど面白かった」と答えます。
ただ、個人的には序章はなくても良かったかな……。
あの序章を載せるなら、結末は読み手に委ねて構わなかったかもしれません。そういう物語だったから。
以下、備忘録的な作中短編の概要。ネタバレなので注意。
【奇蹟の娘】病気の娘は本当に眠っていたのか、起きていたのか。
【転生の地】その男は相手を刺し殺したのか、それとも既に死んだ者を刺したのか。
【小碑伝来】敵に捕らわれた男は自決したか、それとも妻を犠牲にしたのか。
【暗い隧道】その道に行く手を遮る罠はあったのか、無かったのか。
【雪の花】妻は夫を愛していたか、それとも置き去りにしたのか。
緻密な物語ほどオチは読めてしまうのだけれど、それでも良かった。
本編の中では触れられなかったけれど、「父親は娘に真実を伝えたかったのか、隠したかったのか」が一番の深い謎だなぁと思いました。
真実を闇に葬り去りたければ、手がかりなど全て消し去ってしまえば良いのです。
それをわざわざ残したという事は。
愛はあるけれど、憎しみもあるような。守りたいけれど、責めてもいるような。
そういう鬱々とした父親の苦しみと、それを受け取った娘の苦しみが伝わってくるようでした。